誤認捜査から始まった「とんでもないエピソード」

2008年の初頭にメディカルサロンを揺るがせた事件を総括します。
…捜査当局の誤認捜査がきっかけとなった国家権力の横暴事件。被害者など存在しないのに、なぜ事件化されたのか?マスコミの「でっち上げ報道→名誉棄損事件」にも。
「捜査当局による誤認捜査とマスコミ報道→その失態を誤魔化すための無理やりの別罪状づくり→検察の加担→診療現場の常態を無視した、判例を覆す裁判所判決」
の実態がここにある。

著者:ジャーナリスト 福田隼人

 1992年の四谷メディカルサロン設立以後、風本医師が運営するプライベートドクターシステムは好評を博して、著名経営者を含む多くの会員が集まった。「診療を通じて健康教育を推進する」という家庭教師現場を模した診療スタイルの中で健康管理の学問化がすすめられた。創業しばらくたったころは、健康管理学の中でも、体重管理の学問化に力がそそがれた。食欲抑制剤マジンドールの認可も伴ったので、ダイエット指導を希望する来院者4人に1人の割合で、食欲抑制剤が投与され、その実践指導の経験をもとにして、まず体重管理学が大成された。
 また、プライベートドクターシステムの運営の中から派生して生み出されたプラセンタ医療、成長ホルモンのアンチエイジング医療、子供の背を伸ばす医療など、健康保険外の各種の新しい診療体系を完成させる中で、全国から来院者が集まるようになった。2000年頃からは、若手の医師の中からもこの医療を志向するものが多数出現し、名古屋や大阪など全国各地に17ヵ所のサロンを展開した。その過程では、60万部を超える大ベストセラーである「お医者さんが考えた朝だけダイエット」(三笠書房)、健康管理学の大成書である「自分の寿命を管理する本」(東京新聞出版局)を執筆しただけでなく、全12巻2000ページ以上からなる「健康管理指導士資格認定の教科書」を独力で執筆するという奇跡も成し遂げた。

 しかし、2005年の京都メディカルサロンの開設準備のころ以後、医療関連諸団体から、いろいろな「嫌がらせ」を受けるようになっていた。メディカルサロングループが打ち出していた「診療を通じて健康教育を推進する」という理念は、一般医療機関の健康保険の診療においては、「診察室で『物言う患者』を育成する」ことになるので、「患者は何も知らない子羊」であることを望む医療関連諸団体の利害に相反しており、メディカルサロングループの巨大化は、厚労省を含む医療関連諸団体にとって望むものではなかったのであろう。

 2006年10月、厚労省の下部機関である近畿厚生局麻薬取締部が、大阪メディカルサロンに対して、「某エステティックサロンに向精神薬マジンドールを不正販売した」という容疑を立てて、マスコミに情報をリークして、マスコミを呼び集めたうえで強制捜査した。しかし、この不正販売容疑はある反社会勢力が傘下のエステティックサロンに創作させたガセネタで、そのガセネタに乗せられて、検証不十分なまま、勇み足で強制捜査を行ってしまったというものであった(後に、不起訴)。

 強制捜査により、メディカルサロングループには大きな被害が生じた。ガセネタ元が、メディカルサロングループに対して「顧問料」という名目の「みかじめ料」を強要していた反社会勢力(メディカルサロンは当然拒否した)であり、その勢力と情報交換していたことが発覚するのを恐れた麻薬取締部は、国家損害賠償になることを恐れて(疑うに足るとするような十分な証拠はなかった)、つじつま合わせのための強引な別の罪状作りを行い始めた。なお、その反社会勢力は、風本氏に対して、最後には、「俺たちは国家権力を利用できる。なめるんじゃないぞ」と恫喝していた。
 別の罪状づくりも思うようにいかないまま1年以上経過した2007年12月、朝日新聞が、誤認内容の強制捜査の件(立件できないまま長い期間が過ぎ去った件)を、いかにも実際の罪があるかのような、現在進行形の文章に置き換えて、スクープ報道した。風本に接触したこともなく、何の実情も知らないNHKもそれに追随した。麻薬取締部の大スキャンダル事件へと転化されることを恐れた麻薬取締部は大阪地検に頼み込んで、「罪なんていくらでも作れる」の掛け声のもと、「医師の診察をせずに処方薬を従業員に処方させた」という新しい容疑を作り上げ、2008年1月、風本を逮捕拘留した。拘留により風本真吾医師の口が封じられたので、マスコミは捜査当局が発表する一方的な虚偽情報に踊らされることになった。

 マスコミが報じた「従業員に処方させた」の実態は、「医師が処方した薬を、患者の費用の持ち合わせが不足していたなどの理由で2回に分けて従業員(看護師)が交付した。その2回目は従業員が処方したことになる」というものであった。具体的には、「医師が60錠処方した際に、本日は費用の持ち合わせが20錠分しかなかったので、今日は20錠のみ持ち帰り、後に40錠分を取りに来た」という実情であり、後に40錠分を取りに来た時に、従業員との間に、何かの会話をしたうえで、従業員が手渡したので、当該従業員が処方したことになる、というものであった。無理矢理に作り上げた罪状であることは、現場を知るものならすぐに理解できることであった。
 逮捕容疑の無謀な内容を風本は否認し、検察官と侃々諤々(かんかんがくがく)の真っ向対立している最中に、新聞には、「一転して容疑を認めた。儲けるためにやったと供述した。金が欲しかったと供述した」などの虚偽情報が掲載され流布された。逮捕事由の「従業員に処方させた」の実態を深く追及されると、つじつまが合わなくなることを恐れた大阪地検が、マスコミに目くらましをかけるつもりで、虚偽情報を流したのであろう。

 この当時の新聞報道は、ネット上に今でも散見され、捜査当局による情報操作とそれに踊らされるマスコミの姿が浮き彫りになっている。虚偽情報を流す、という悪質な手法を選択したことから、診療現場の通常行為を故意に歪曲して、身柄拘束を行っていることを捜査当局自身が認識していたことが証明される。
 なお、逮捕事由の「従業員に処方させた」は、診療現場の日常行動の解釈の問題にすぎず、その一連はカルテに記載されているとおりであり、証拠隠滅などが関与しない問題であるので、身柄拘留の必要性がないことから、「口封じ」目的の逮捕であったことは容易に理解できる。あるいは拷問状態にして無理やり自白させようという目的の逮捕ともいえる。この目的の逮捕に逮捕令状を出したことから、裁判所も、以後は内容がどうあれ、有罪の方向にもっていかなければいけない立場にさらされることになった。

 2009年に大阪地裁にて有罪判決が下された。判決内容は、「従業員が交付する際に、調子どうですか、などの会話があったから、従業員が処方したことになる」というものであった。多くの法曹関係者は、「起訴状一本主義」の最たるものと酷評し、この判決を揶揄した。

 2010年、控訴審において、高等裁判所は「従業員が確認の会話をしたほうが、より安全性が高まる」と説示し、一審判決の内容は否定された。しかし、無罪にするわけにいかなかった裁判所は、「医師の非面前(隣室)で看護師に注射させた」ことを取り上げて、二審判決において、別内容で有罪とした。判決内容は、「医師が看護師に注射を行わせる場合は、事前指示は不可で、診察した直後にそのまま医師の観察下で注射させなければいけない」というものであった。一審判決と二審判決で対象行為・論点を変更するのは異例中の異例である。

 なお、公判においては手渡した従業員が処方したことになるかどうかのみが議論されており、判決文の内容は議論されていない突然のものであった。この判決文に照らせば、看護師へのオーダーシート、点滴伝票を利用している日本の医師のすべてが医師法違反を犯していることになる。しかし、元々、この裁判においては議論されていない内容だったので、診療現場における医師・看護師間の「オーダーシート」「点滴伝票」などのシステムを公判の場で説明すること自体も存在しなかった。

 公判での議論なく裁判所が下した独善的判断で、「捜査機関、検察の横暴に対して、裁判所が国民を守る砦になっていないことを実証している」と酷評する者もいた。判決以後、看護師による筋弛緩剤の誤投与による死亡事件、点滴への毒物混入による死亡事件など発生しているが、この判例に基づくと、指示を出した担当医が、まず一次的に医師法違反を犯していることになる。しかし、捜査陣、マスコミ、医師会らは、その医師法違反を一切指摘していない。診療現場における「医師の事前指示と、医師の非面前による看護師による実行」は違和感なく、自然定着しているものであり、ここに事件性を指摘するものは皆無である。
 死亡する被害者がいる事件でさえ、捜査陣や被害者の遺族が指摘しないことを、被害者がいない本件において裁判所が指摘していることからも判決内容の異常性が理解できる。捜査陣を擁護したいからにほかならないのであろうと推察される。あるいは、最初の誤認捜査においては、麻薬取締部の申請(反社会勢力が作り上げたガセネタ)に基づいて、裁判所が強制捜査の令状を盲目的に発していることも関与しているのかもしれない。

 2014年、裁判所の判決に基づいて、厚生労働省の医道審議会医道分科会により処分を受けた。厚労省は、2007年に「医療職の役割分担に関する通達」において、医師の事前指示の範囲を広げて推奨するにいたっていた(判決内容と正反対)ので、その矛盾をついて行政訴訟を行うべきだとの意見が多かったが、風本は、「医療現場の実態を考えると、裁判所の判決内容は錯誤しており、厚労省の行政通達のほうが正しい。行政訴訟を行って、厚労省の通達内容に異議を唱えると、医療社会は大変な混乱をきたすことになる。医療社会のために処分を甘受し、診療現場に何の変化も起こらないように気遣うことにする」とコメントした。

 なお、事実に沿わない朝日新聞の報道に関しては、名誉棄損で訴訟となったが、「記者が捜査当局の幹部に電話で聞いたという情報は、虚偽ではあったが、記者が信じるに足ると判断するには十分であった」と裁判所は判断し、名誉棄損にはあたらないとされた。つまり、「検察の幹部という肩書を持つ者が電話口でしゃべった、と記者が語るなら、その記者の『検察幹部が云々』という言動そのものの虚実を確認しなくても、そして、検察の幹部が誰であるかを特定しなくても、さらに、検察の幹部を名乗る者が語った内容が嘘であっても、その検察幹部を名乗る者が語った内容を真実であるとみなすことには妥当性があり、その内容を検証せずに、流布させても、責任に問われる必要はない」という趣旨であった。逮捕拘留により口封じされた者に関しての虚偽報道を行うことに大義名分を与える判決であり、このような判例があるから、検察は平然と口封じ目的の逮捕を行い、朝日新聞は嬉々として虚偽報道をするのであろう。捜査当局幹部の国家公務員法違反に関しては触れられなかった。

 通院していたプライベートドクターシステムの会員自身が事情をよく知っており、ほぼすべての会員がその後も通院を続けている。

 最初に強制捜査(誤認)を行った近畿厚生局麻薬取締部の担当者は左遷された。別容疑の医師法違反を作り上げた大阪地検は、「罪なんていくらでも作れる」というゲーム感覚の面白みに酔ったために、後に厚労省村木局長事件において証拠改竄の罪を犯し、関係者が逮捕され有罪判決を受けた。
マスコミは、本件以後、逮捕拘留者の動向に関して、捜査員からの口伝情報をうかつに信じることはなくなった。

 一方、風本真吾氏は、有罪判決や厚労省の処分の影響もほとんどなく、多くの来院者に支持されて、四谷の診療所を順調に運営し続けるだけでなく、自ら基金を拠出して(社)日本健康教育振興協会を設立し、「全国民の健康、医療、人体に関する知識の向上」を目指して、2016年には、一般の人向けの予想医学検定3級、2級、1級の教科書、健康サービス系のサロンのスタッフ向けの「素肌管理指導士」「体重管理指導士」の教科書を完成させた。2017年には、講演活動を再開している。
これらのことは、風本真吾氏がもつ、日本風土独特の迫害に屈しなかった信条と思想、理想の追求心を象徴すると同時に、社会が求めているものを象徴していると言えるであろう。さらに、活動の社会正義が伴うのなら、マスコミや国家権力にどのような横やりを入れられても、その活動が破たんすることがない、ということをも証明していると言えるであろう。

 「正義とは何か?」を論じるにあたって、価値あるエピソードであるといえる事件であった。この一連の経過から連想できることは、日本社会の特徴を反映していると言えるのかもしれない。

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