風本真吾の健康談話

予想医学・・・「無念の死」を避けるための選択

医学は、診断学と治療学で成り立ちます。診療現場では、病気になった人に対して「診察を行って病名を予想し、検査で病名を確定させ、治療計画を考え、その治療を施し、治療の成果を確認する」という行為を繰り返していますが、その行為を支えるのが診断学、治療学です。
病気でない人に対しては、健康管理学という学問が必要です。この健康管理学の一環として、予想医学という学問が存在します。

具体的に述べてみましょう。
アメリカの女優、アンジェリーナ・ジョリーさんを思い起こしてください。「乳ガンの遺伝子を持っていたので、あらかじめ乳腺を切除した」ということが知られています。
「乳ガンの遺伝子を持っている」というのは、具体的には「17番目の染色体にBRCA1、BRCA2という遺伝子領域がある。生まれつき、この領域に遺伝子変異を持っている人には、50歳までに87%の確率で、乳ガンが発生する」ということを意味しています。
今の身体を調べることによって、身体の未来の健康リスクを予想しているのです。このように、未来リスクを予期する医学を「予想医学」と呼んでいます

胃ガンの原因として「ピロリ菌」という細菌がよく知られています。昔の高度経済成長時代、日本人のガン死因の第一位は胃ガンでした。この胃ガンの元凶がこのピロリ菌だったのです。胃ガンだけでなく、「慢性的に胃具合が悪い」の原因は、ほとんどがこのピロリ菌によるものでした。ヘリコバクター・ピロリ
ピロリ菌は口から入り込んで、胃の粘膜にへばりついて増殖します。胃の中は強い酸性ですので、細菌は生き残れないと思われていました。しかし、ピロリ菌は自身の菌体の周囲にアンモニアを発生させて、酸を中和して生き残り、増殖するのです。
ピロリ菌は胃の粘膜にダメージを与え続け、胃粘膜萎縮という状態を作り出します。この萎縮を起こした胃粘膜から胃ガンが発生するのです。30歳以下の若いころに胃の粘膜にピロリ菌が感染し、そのピロリ菌を胃内に持ち続けたなら、80歳までに胃ガンを発生する確率は6倍になります。これも重要な予想医学です。

このピロリ菌を巡っては、医療業界の特徴を映し出すエピソードが連発します。ピロリ菌が発見されたのは、1982年でした。1990年ごろには胃ガンの原因であろうとほぼ確実に思われていました。
私がセミナーや講演でピロリ菌のことを話し出したのは1992年でした。東京新聞の連載でピロリ菌のことを記載したのは1998年でした。しかし、この当時、ピロリ菌のリスクを語ることには、強い圧力があったのです。

当時、消化器病学会のドン(首領)といわれた人は、もっと昔に、「日本人に胃ガンが多いことの原因は、塩分の過剰摂取が原因である」という論文を書いて有名になった人でした。ほとんどの医師は「ピロリ菌はやばい。何とかしなければ」という思いを持っていたのですが、その人を憚って、学会の場で「胃ガンの原因である」と言い切るわけにいかず、「胃ガンの原因の可能性があるから、今後の研究が必要である」というぼやかした表現が続いていたのです。

製薬業界は、「ピロリの除菌は、歴史の古い安くなった薬でできてしまう。それでは製薬業界に経済的効果を生み出さない。それどころか、ピロリが除菌されると胃薬の売上が半減してしまう。時間をかけて新薬での除菌が開発されるまで、ピロリ除菌は国民に認知させないでほしい」という願いを持っていました。その願いは、陰に陽に厚労省に届きます。

食品業界は、「簡単に除菌されたら困る。ピロリ菌を抑えるという食品は、一大市場になる」と推察し、実際に「LG21」というヨーグルトを開発し、ピロリ除菌が病院で簡単に除菌できてしまうのを妨げたいという思惑を持ちました。その思惑も厚労省に届きます。

本来は、医師が強力に主導して、
「胃ガンの元凶はピロリ菌である。国民の皆さん、すぐにピロリ菌を調べて、除菌しましょう」
と働きかけなければいけません。しかし、「胃ガン患者が発生してくれなければ仕事にならない」「胃具合が悪いという患者がいないと仕事にならない」という思いを持つ外科医、内科医は、できる限り知らんふりを決め込みました。
そんなわけで、つい最近まで、ピロリ菌のことは広く周知されなかったのです。その間に大勢の人が胃ガンで「無念の死」を迎えました。医療業界のこの体質こそ、皆さんの健康リスクです。

私は、1992年に創設したプライベートドクターシステムを運営する立場にありました。このシステムは、健康管理に重要性を感じている経営者に入会してもらい、「あなたの健康は私が守る。健康管理学を語り合いながら、実際に身体を調べて、予想医学の観点から、健康リスクを排除していく」というものでしたので、「ピロリ菌を放置する」などという選択肢はあり得ず、すぐに除菌しました。その後、25年にわたって運営していますが、ピロリ菌を除菌した会員から胃ガンは一人も発生していません。
ピロリ菌検査・除去

さて、食生活が欧米化したと言われます。その結果、心筋梗塞、脳梗塞、大腸ガン、前立腺ガン、乳ガンが増えました。食生活が欧米化したら、人体はどのように変化するのでしょうか?
答えは、「アラキドン酸体質になる」です。このアラキドン酸体質になってしまった人が、改善されないで放置されているために、「無念の死」を迎える人がたくさんいます。

このアラキドン酸体質のことも、ここまで記したような医療業界の思惑が関与して、なかなか皆さんに周知されません。次回は、それに関して語ってみます。

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